日本の多くの会社員が、残業が多く休みが少ないという現実に直面しています。長時間労働は健康を損なうだけでなく、仕事へのモチベーションや生活の充実感にも影響を与えてしまいます。
本記事では、私が様々な職場経験を通して、残業の多い部署と残業の少ない部署との業務遂行方法の違いを見比べてきた経験を踏まえ、残業が多く休みが少ない状況から脱却するための具体的な解決策を提案します。ご自身の働き方や組織の仕組みを見直し、より健康で充実した働き方を実現するためのヒントを挙げましたので、ご参考にしていただければ幸いです。
なお、解決策として、「俯瞰的な視点による業務の抜本的な見直し」と「日頃の所属部署内での取り組みやご自身で工夫すべきこと」の2段階があります。
特に第1段階の「俯瞰的な視点による業務の抜本的な見直し」については、課題があれば是正することが必須であり、この課題を解決しない限り、第2段階の「日頃の所属部署内での取り組みやご自身で工夫すべきこと」の対策をとっても解決しません。本記事は前編として、第1段階の「俯瞰的な視点による業務の抜本的な見直し」について紹介します。
本編で紹介する「俯瞰的な視点による業務の抜本的な見直し」として、「会社及び所属部署の使命と役割の把握」と「所属部署内の業務の棚卸と業務分担の見直し」の2つがあります。所属している組織が大きい程、この視点が失われがちですので、ご自身の部署(部、課、係)や担当業務にフォーカスをする前に、これらの2つについて確認を行いましょう。
会社及び所属部署の使命と役割の把握
会社に所属し業務を遂行する大前提として、会社及び所属部署の使命と役割をしっかり認識した上で、業務遂行の方向性を明確にし、目標達成に向けた効果的な行動をとることです。その前提を飛ばして、所属部署内の目の前にある現在の業務のみに着目して、他者に業務を委任することや廃止するといった判断をすることは危険です。以下に、会社及び所属部署の使命と役割を把握するための具体的なポイントを解説します。
会社の使命とビジョンの理解
まず、会社の使命やビジョンを理解することが重要です。多くの企業が経営理念や年間の実行計画を立てていると思います。会社がどのような価値を提供し、どのような方向性を目指しているのかを把握することで、ご自身の役割や業務の意義を理解しやすくなります。
会社の使命やビジョンがいまいち腑に落ちない場合や理解しづらい場合は、以下の2つの視点で考えてみてください。
1つは、会社や所属部署の使命を達成するためには、顧客や利害関係者のニーズを理解することが不可欠です。顧客が求める価値やサービスにフォーカスし、それに応えるための戦略やアクションを考えることで、顧客の視点から会社の役割や目標を捉えることが出来ます。
もう1つは、外部環境の変化や競合他社の動向を把握し、適切な対応策を検討することも重要です。市場のトレンドや顧客のニーズが変化する中で、柔軟な対応と戦略の見直しが求められますので、今後会社がどうあるべきかを想像することが出来ます。
所属部署の役割と目標の把握
次に、所属部署の役割や目標を把握します。部署がどのような業務を担当し、会社の使命達成にどのように貢献するのかを明確に理解することが重要です。多くの企業においては、社内規定上で部署毎の役割や業務分担が明示されていると思いますので、一度原点に立ち返ってそれらの規程類を確認してみましょう。また、部署ごとに設定された実行計画、目標、KPI(Key Performance Indicators)等を把握しましょう。
所属部署内の業務の棚卸と業務分担の見直し
所属部署内の業務の棚卸
会社及び所属部署の使命と役割を把握した後は、所属部署内で現在抱えている各業務について、所属部署のチーム全体で議論しながら棚卸をしましょう。「この業務は本当に所属部署で担当する業務なのか」。実は過去に、「他の部署から押し付けられて当時の担当者がしぶしぶ引き受けていた」、「当時の担当者が本来取り組むべき仕事が出来なかったため、自身が出来る仕事や好きな仕事のみに専念していた。(部署の役割を自身の都合のいいようにすり替えて解釈していた)」といった形で現在に至っている場合もあります。
特に前者においては、所属部署の役割や目標が明確でないため、他部署からの業務依頼や要求に対する判断基準が不明確となり、本来必要のない業務を受け入れたケースです。所属部署の役割や目標を明確化し、他部署からの業務依頼や要求に対する判断基準を明確にすることで不必要な業務を適切に断ることができます。各メンバーが所属部署の役割を理解し、本来取り組むべき業務に専念し、チーム全体で目標に向かって協力して働くことが必要です。
所属部署内における業務分担の見直し
所属部署にて本来取り組むべき業務を絞った後は、チーム内で役割分担(業務分担)を行います。この際、各メンバーの過去の業務経験や実績、得手不得手を把握した上で、チームとして最大限のパフォーマンスが発揮できるよう、業務分担を行います。所属部署のリーダーが部署内の業務内容を全て把握の上、分担を指示することが一般的ですが、各メンバーの納得感が増す方法として、以下の流れで対応することをオススメします。
①委任及び受託可能な業務の特定【各個人】
各個人が現在行っている業務の中で、他のメンバーに委任する業務を選定します。委任の対象は、「自身の役職未満でも対応可能な業務」や「当該業務を遂行するにあたり自身よりも知識や能力が長けているなど、その人が担当することがふさわしい業務」などです。 また、他のメンバーが現在行っている業務の中で、自身が得意とする分野など当該メンバーから受託してもよい業務を選定します。
②所属部署内での議論【全メンバー】
各個人が①で行った内容について、所属部署内での打ち合わせの場でリーダーを交えて議論をします。委任する際には相手に押し付ける形にならないよう配慮が必要です。「○○の業務歴をお持ちの○○さんだからこそ、私より上手に仕事が出来そう」といったニュアンスで伝えましょう。
一方、自身が受託する業務についても、「○○の業務をお渡しする代わりに、△△の業務を私が担当させていただきます。」といった形で伝えるのがよいでしょう。
最後は、業務負荷が特定のメンバーに偏らないよう、リーダーが判断すればよいでしょう。
③適切なフォローアップとサポート【全メンバー】
委任した業務に対しては、適切なフォローアップとサポートが必要です。メンバー間でミーティング等を開催することで、進捗状況や問題点を定期的に確認し、必要に応じてアドバイスやサポートを行いましょう。
以上、①~③の方法により、所属部署のリーダーと各メンバー間でお互いに尊重し合いながら得意とする業務を中心に役割分担することで、効率的な業務遂行とチーム全体の生産性向上を図ることが可能となります。
まとめ
ご自身の働き方や組織の仕組みを見直し、より健康で充実した働き方を実現するためのヒントの前編として、「俯瞰的な視点による業務の抜本的な見直し」を紹介しました。
「会社及び所属部署の使命と役割の把握」と「所属部署内の業務の棚卸と業務分担の見直し」の2つを行い、課題があれば是正することが重要です。特に後者においては、各メンバーを動かすことは大変ですが、まずはこれらの課題をクリアにしない限り、後編で紹介する対策をとっても解決しませんので、周囲にいる力のある人に味方になってもらってでも、組織を動かし意識改革をすることが肝要です。
後編では、第2段階の「日頃の所属部署内での取り組みやご自身で工夫すべきこと」について、紹介します。